第77回(2026年)獣医師国家試験総評~問題分析(解説)から見えてきたこと

Meg 獣医師国試予備校 | 試験分析

第77回獣医師国家試験を振り返る
——「知識を持つ」から「知識を使う」へ

令和8年2月17日・18日 実施 / 農林水産省公表正答に基づく分析

68.4%
全体合格率
83.9%
新卒合格率
32.4%
既卒合格率

第77回獣医師国家試験 総評

第77回獣医師国家試験は、受験者1,433人・合格者980人で全体合格率68.4%という結果に終わりました。過去5年の中でも低水準であり、新卒83.9%に対して既卒32.4%という合格率の開きは際立っています。しかしこの数字を「難しかった」の一言で片づけてしまうのは正確ではありません。実際に問題を精査すると、新奇な論点が増えたというより、「知っている知識をつないで使えるか」が問われた回だったことが浮かびあがります。

実地C・問1心電図を「読んで、治療につなげる」力

実地C|問1
犬(チワワ)・避妊雌・5歳齢 ふらつき・心電図所見から治療選択
正答:⑤
症例:犬、チワワ、避妊雌、5歳齢。2週間前からふらつくことがあるとの主訴で来院。院内で心電図(図1)を記録。最も適切な治療を選べ。
選択肢 治療内容
ピモベンダンの投与
リドカインの投与
アテノロールの投与
カテーテルアブレーション
ペースメーカー埋め込み術 ✓ 正答
解説
不整脈の名称を知っているだけでは解けない問題です。提示された心電図波形から徐脈性不整脈(完全房室ブロックまたはサイナスアレスト相当)と判断し、薬物療法では対応困難な症例であることを理解し、ペースメーカー適応につなげる推論が必要でした。

心電図判読 → 病態把握 → 治療選択、という一連の臨床推論の流れをそのまま問うています。薬理だけを覚えていても、循環器の病態を分野横断的に理解していなければ正答を選ぶ根拠を持てません。

実地C・問17症状・身体検査・血液検査を「束にして読む」力

実地C|問17
牛(黒毛和種)・去勢雄・22か月齢 食欲不振・下痢・打診圧痛・血液検査
正答:③
症例:牛、黒毛和種、去勢雄、22か月齢。食欲不振・黄褐色水様下痢便を主訴に診察。体温41.0℃、心拍数72/min、呼吸数26/min。腹部膨満なし。右側第10〜12肋骨付近の打診で圧痛を認めた。血液検査結果(表17)あり。最も疑われる疾患を選べ。
選択肢 疾患名
第一胃食滞
第四胃右方捻転
急性肝炎 ✓ 正答
盲腸捻転
腸重積
解説
「黄褐色水様下痢便+発熱」だけで疾患名を当てにいくと混乱します。この問題の決め手は、右側第10〜12肋骨付近の打診圧痛(肝臓の打診領域)と血液検査での肝酵素上昇所見を重ねることです。腹部膨満がないことで、第一胃食滞・第四胃捻転・腸重積を積極的に除外できます。

病態・身体検査・検査値を束にして鑑別を進める——まさに臨床推論の流れを再現できるかを問うています。症状名を個別に暗記していた受験生が苦しい問題の典型です。

実地C・問18臨床と法規・疫学データを「横断する」力

実地C|問18
家畜伝染病予防法・監視伝染病の国内発生頭数グラフから感染症名を答える
正答:⑤
問題:「家畜伝染病予防法」に定められたある監視伝染病の我が国における発生頭数を示したグラフ(図18)から、感染症名を選べ。
選択肢 感染症名
ブルータング
炭疽
伝達性海綿状脳症
ヨーネ病
アカバネ病 ✓ 正答
解説
グラフには周期的な発生波動が示されており、アカバネ病がヌカカ類を媒介者とする季節依存性の異常産疾病であること——媒介昆虫の消長や年次変動パターンを疫学的知識として持っていることが解答の根拠になります。

臨床症状だけでなく、法規(家畜伝染病予防法)と疫学データ(発生頭数の時系列)を組み合わせて判断する問題です。第77回が「臨床と公衆衛生・法規をまたぐ出題が入った回」であることを端的に示しています。

実地D・課題1臨床経過・剖検・病理組織をすべて「つなぐ」力

実地D|課題1・問1&2
猫(雑種)・避妊雌・6歳齢 若齢発症の慢性腎不全・剖検・病理組織像
問1:⑤ 問2:②
症例:猫、雑種、避妊雌、6歳齢。生後9か月齢頃から貧血・高窒素血症・高リン血症が徐々に悪化し、持続性血尿がみられ死亡。剖検時の腎臓肉眼像(図1-A)・ホルマリン固定後の割面(図1-B)・病理組織像(図1-C)が提示。
問1:最も疑われる疾患 問2:本疾患に関する正しい記述(組み合わせ)
【問1】選択肢と疾患名
腎乳頭壊死
腎臓の貧血性梗塞
腎芽腫
水腎症
多発性囊胞腎 ✓ 正答
【問2 正答:②(a・e)】記述内容
a 肝囊胞を伴うことがある ✓
b 尿管の閉塞により生じる
c 肥大型心筋症に続発することがある
d 未熟な尿細管を認める
e PKD1遺伝子の変異が認められる ✓
解説
臨床経過だけでも、画像だけでも、病理組織像だけでも解けない問題です。若齢から進行する慢性腎不全という臨床経過、固定後割面の多発性囊胞性病変、病理組織での囊胞を形成した拡張尿細管という所見を一体として理解したうえで、PKD1遺伝子変異・肝囊胞合併という遺伝性疾患の周辺知識まで問われます。

知識の「幅」ではなく、知識の「つながり」が問われる設問の最たる例です。

実地D・課題9感染症の臨床・疫学・重症化を「立体的に理解する」力

実地D|課題9・問17&18
感染症法・節足動物媒介性感染症の2024年度都道府県別患者発生状況
問17:② 問18:⑤
問題:感染症法に基づき報告された、ある節足動物媒介性の感染症の2024年度・都道府県別患者発生状況(図9)を示す。
問17:この感染症の名称 問18:この感染症に関する正しい記述
【問17】選択肢と感染症名
日本脳炎
日本紅斑熱 ✓ 正答
アナプラズマ症
ダニ媒介脳炎
野兎病
【問18 正答:⑤】選択肢と記述内容
我が国ではヒトのワクチンが実用化している
抗菌薬による治療は無効である
診断は血液塗抹により特徴的な感染細胞像(顆粒球)を確認する
ウサギの致死的感染が確認されている
我が国ではヒトで重症化して死亡した事例の報告もある ✓ 正答
解説
都道府県別分布から、日本紅斑熱の流行地域(西日本を中心とした沿岸部・山間部)を疫学データとして把握していることが問17の解答根拠です。問18の選択肢には、アナプラズマ症の鑑別ポイント(顆粒球内の感染細胞像)など類似疾患の知識が混在しており、日本紅斑熱・アナプラズマ症・ダニ媒介脳炎を横に並べて理解していなければ誤りを見抜けない構造になっています。

病原体名を単独で覚えているだけでは対応できない——国内発生状況・感染様式・重症化や治療に関する知識を結びつける力が試されました。

これらの問題に共通するもの——「見たことがある内容なのに解けない」
完全に見慣れない知識を要求しているわけではないという点がポイントです。アカバネ病も、多発性囊胞腎も、日本紅斑熱も、いずれも国試の頻出論点です。しかし第77回では、その論点が症例データ・図表・グラフ・法規・発生状況と結びついて出題されています。正解番号を覚えていた人、あるいは症状名だけを単独で記憶していた人が「知っているのに解けない」状態に陥りやすかったのはこのためです。

新卒83.9% vs 既卒32.4%——この差が示すもの

83.9%
新卒合格率
大学教育を通じて
つながった知識を保持
32.4%
既卒合格率
苦手補強・過去問演習中心で
知識が分断されやすい

大学在学中の新卒生は、講義・実習・症例検討を通して、解剖・生理・病理・薬理・感染症・公衆衛生をある程度つながった状態で学んでいます。一方、既卒生はどうしても苦手分野の補強や過去問演習が中心になりやすく、知識が分野ごとに分断されやすい傾向があります。第77回では、その差が結果に強く表れたと見るべきでしょう。

第78回に向けた学習の組み替え方

新卒生つながりを切らさない

単元別暗記に戻るより、症例ベースで復習する
病態・鑑別・検査・治療・法規・疫学を一続きで確認する
心電図なら「なぜペースメーカーか」まで説明できるか確認する
大学の実習・症例検討の記録を国試復習に活用する

既卒生詰まる段階を可視化する

時間を増やすだけでなく、学習方法を組み替える
病態理解・鑑別・検査値・制度との接続、どこで止まるかを把握する
過去問は「正解番号」でなく「なぜその答えか」を言語化する
身体検査所見と血液検査を組み合わせる練習を積む

実地C問1であれば心電図波形から徐脈の機序を説明し、なぜペースメーカーが適応となるかを言葉にできるか。実地C問17であれば、右側第10〜12肋骨の打診圧痛がなぜ肝臓の所見として意味を持つのかを理解しているか。実地D課題1であれば、多発性囊胞腎の病理組織像が臨床経過の何を反映しているのかを説明できるか——正解を当てることより、思考の流れを再現できることが、第78回以降では重要です。

まとめ——第77回が問うたもの、第78回に向けて

第77回獣医師国家試験は、「知識を持っている受験生」ではなく、「知識を使える受験生」を選ぶ試験でした。実地C問1・問17・問18、そして実地D課題1・課題9は、その特徴をよく表しています。
これらの問題に共通するのは、「症例・データ・法規の文脈の中で知識を動かす」という要求です。従来から重要とされてきた論点が、心電図・グラフ・剖検所見・疫学データと組み合わさって出題された——この構造は第78回以降も継続すると見るのが自然です。
暗記の量を増やすのではなく、知識を症例・データ・法規の中で動かせる形に組み直すこと。それが合格への最短経路です。