【第77回】獣医師国家試験対策|最新5年の出題傾向と思考力型問題の勉強法

獣医師国家試験対策の勉強法イメージ

獣医師国家試験は、ここ5年で大きく変化しています。従来のように「用語や疾患名を丸暗記すれば得点できる」試験ではなく、知識の関連性や臨床応用力を問う“思考力型問題”が増加しています。

特に、動物種ごとの病態理解や、診断・治療のプロセスを問う設問が増加しており、「断片的な知識」では対応しきれない出題構造となっています。

本記事では、最近5年間の出題傾向の変化、思考力型問題の特徴と攻略法、具体的な学習・演習戦略を体系的に解説します。

第1章 獣医師国家試験の概要と最新トレンド分析

1. 出題構成(令和5〜9年度の共通フォーマット)

獣医師国家試験は全400問前後、6時間の長丁場で、以下の3領域で構成されています。その中で思考型・総合型の問題が占める割合は年々増加傾向にあります。

区分 内容 出題数(目安) 特徴
A領域 基礎獣医学(解剖・生理・病理・薬理など) 約120問 理論的理解を問う
B領域 応用獣医学(家畜衛生・感染症・産業動物臨床など) 約160問 臨床的判断力中心
C領域 共通・総合問題(症例・公衆衛生・倫理など) 約120問 思考力・総合判断型が中心

2. 最近5年間の出題トレンド分析

① 思考力型・臨床応用型問題の増加

症例提示や画像診断、経過観察をもとに選択肢を推論する形式が増加しています。「なぜその症状が出るのか」という因果関係を理解していないと解けません。

出題例

牛の発熱と乳量低下を主訴とする症例において、最も考えられる病態を選べ。

→ このように「症状 → 病態」を論理的に結びつける力が問われます。

② 公衆衛生・人獣共通感染症の比重増

新型感染症や食品安全への社会的関心の高まりを受け、人獣共通感染症・衛生管理・防疫関連の出題が顕著に増えています。これらは「制度と現場対応の関係」を理解しておく必要があります。

③ 画像・データ問題が頻出

レントゲン、CT画像、血液検査データ、グラフ解析が標準化しています。「データを読み取り、原因を推測する」力が重視されており、臨床推論の基礎トレーニングが必須です。

④ 知識の統合問題(学際型)

複数分野にまたがる設問が増加しています(例:薬理学+病理学+生理学を組み合わせた治療メカニズム理解)。これにより、「縦割りの勉強」ではなく、知識をつなげて使う訓練が必要になっています。

3. 合格率と学習傾向(過去5年間のデータ)

合格率自体は安定していますが、問題の「質」が変化しており、「従来型の暗記学習では通用しない」ことが明確になっています。

年度 受験者数 合格率 傾向
R3 1146名 83.2% CBT導入世代で基礎強化が功を奏す
R4 1196名 80.3% 思考力型問題増加で難易度上昇
R5 1254名 69.9% 公衆衛生・感染症領域が中心
R6 1394名 72.7% 臨床応用・症例読解が増加
R7 1440名 71.9% データ解析・診断推論問題が定着

第2章 思考力型問題とは何か?

思考力型問題とは、知識を単独で再生するのではなく、知識を組み合わせて”答えを導く力”を問う出題形式です。

思考力型問題の特徴

  • 設問文が長く、背景情報(症例経過・画像など)が多い。
  • 選択肢のすべてが一見正しそうに見える。
  • 「理由づけ」ができないと正答を選べない。

例題(形式例)

3歳の犬が食欲不振と下痢を呈して来院した。血液検査でALTの上昇が認められた。考えられる疾患はどれか。

→ ALT上昇=肝細胞障害を示唆 → 肝炎・中毒などを連想 → 臨床症状と照らし合わせて最も合理的な選択肢を導く。

このように、因果関係と生理・病理の理解を組み合わせることが問われます。

第3章 出題領域別・傾向と対策

1. 基礎獣医学(A領域)

重点科目: 解剖、生理、病理、薬理、微生物

傾向: 機能理解、病態連鎖、画像識別が中心

対策

  • 単語暗記ではなく「プロセス理解」を重視。
  • 自分の言葉で現象を説明する練習(口頭アウトプット)。
  • 系統図・因果マップで整理する。

おすすめ学習法

「正常 → 異常 → 治療」の3段階で整理するノートを作成する。

2. 応用獣医学(B領域)

重点科目: 産業動物臨床、外科、内科、繁殖

傾向: 症例型、診断推論、治療判断問題が中心

対策

  • 教科書+症例集で「経過の流れ」を学ぶ。
  • 臨床推論トレーニング(症状→原因→治療方針)を行う。
  • 画像・データ問題に慣れる。

ポイント

「症状から病態を説明できるようにする」ことが最重要。

3. 公衆衛生・共通問題(C領域)

重点: 感染症法、食肉衛生、環境衛生、倫理、防疫体制

傾向: 実務・制度理解+臨床応用

対策

  • 最新法改正(人獣共通感染症法、動物愛護管理法など)に注意。
  • 実際の事例(BSE、鳥インフルエンザなど)を通じて学ぶ。
  • データ・統計問題を訓練する。

重要キーワード

Zoonosis(人獣共通感染症)、HACCP、One Health、国際防疫協力

第4章 思考力型問題に強くなる5つの学習法

  1. 原因と結果をセットで覚える
    現象を単独で暗記するのではなく、「なぜそうなるのか」を常に説明できるようにする。例:「貧血」→「赤血球減少」→「酸素運搬能低下」→「呼吸数上昇」
  2. 「説明できる学習」を意識する
    友人や後輩に説明してみる。説明できない箇所が”理解の穴”です。CBT・OSCEでもこの”説明力”がそのまま得点に直結します。
  3. 分野横断ノートを作る
    「臓器」や「機能」をテーマに、複数科目の知識を結びつけて整理する。→ 試験で複合問題が出た際にも対応可能。
  4. 演習中心の勉強サイクル
    「読む → 解く → 理由を確認 → もう一度解く」というサイクルを回す。過去問を3周するより、1問を深く分析することの方が効果的です。
  5. “臨床思考ノート”を作成
    症例問題を解いた後に「自分ならどう診断するか・どう治療するか」を簡単に書く。推論過程を記録することで、国家試験・実習・将来の診療時すべてに応用できます。

第5章 国家試験合格に向けた1〜2年計画モデル

期間 学習内容 目的
5年次前期 基礎総復習+過去問1周 出題形式に慣れる(インプット再構築)
5年次後期 分野別演習+模擬試験 弱点把握・記述訓練(アウトプット開始)
6年次前期 総合問題演習・模擬試験 思考力型対応力の完成(実践力強化)
6年次直前 反復復習+誤答分析 精度・スピード調整(最後の追い込み)

まとめ:これからの国家試験は「思考力×理解力」で勝つ

近年の獣医師国家試験は、「知識をどれだけ覚えたか」よりも「どれだけ理解して使えるか」を問う試験へ完全にシフトしています。だからこそ、

  • 因果関係で理解する
  • 分野を横断して整理する
  • 理由を説明できるようにする

この3つの軸を意識した学習が、最も確実な合格への近道です。”思考力型問題”に強くなるということは、すなわち「臨床現場で即戦力となる獣医師への第一歩」でもあります。

 
監修者プロフィール

Meg講師:平松 育子 先生

平松育子先生は、山口大学農学部獣医学科(現 連合獣医学部)を卒業された獣医師です。

卒業後は山口県内の複数の動物病院で代診として経験を積まれました。その後、山口市でご自身の動物病院を開業され、現在は大手動物クリニックの院長を務めていらっしゃいます。

授業においては、その豊富な臨床経験に基づいた、わかりやすく丁寧な解説が受講生から好評を得ています。